約 2,280,935 件
https://w.atwiki.jp/nijiura_city/pages/686.html
○ ――松本空港付近の空地 風があり、人がいる。 風は冷気をはらんでおり、人は銃器などで武装していた。 涼風が吹き寄せる中、武装した者たちは一人の女を包囲している。 包囲の人数は十三人。 武装する周囲に対し、女は無手だ。下駄に着物という純和風の格好で、周囲を気にすることなく立っている。 と、包囲網に動きがあった。 「――母様!」 声と同時、包囲網の上を飛び越えて、小柄な人影が現れた。 少年だ。紺色の子供用スーツに身を包み、手には細長い包みを六本。 武装した者たちはとっさに手にした銃器を向けるが、長弓を背負った指揮官らしき男の制止の手振りで動きを止めた。 女は現れた人影を見て、 「ジェイド。おかえり」 「ごめんなさい、遅くなりました。――この人たちは?」 ジェイドと呼ばれた子供は笑顔で母に答え、すぐに周囲に視線を巡らせて顔色を曇らせる。 女はジェイドの持ってきた包みを受け取り、 「さあ。――とりあえず、無害だから無視してればいい」 そう答えた直後、 「――相変わらずだな、荻原!」 声が響いた。 ○ 荻原・文月はその姓を呼ばれ、包囲の輪の中から出てくる声の主を見た。 対全攻撃型白衣に身を包み、長弓と矢筒を背負った男だ。 文月はその男を数秒見て、 「……誰?」 「矢村だ。散々迷惑かけた昔の同僚を忘れんで欲しい」 「――ああ、常念岳守護役の夫の矢村?」 「……何故そういう覚え方をするのだ、貴女は」 なぜか溜め息を漏らす矢村を失礼だと思いつつ、文月はジェイドから受け取ったものを軽く振る。 土産物屋でよく売っている、神形具の木刀だ。学生用で殺傷能力には欠けるが、耐久性が高く使いやすい。 文月は六本のうち四本をジェイドに持っていてもらい、残る二本を両手に持ち、 「――それで、特領(GASAS)が私に何の用?」 右の一刀を矢村に向けた。 「……国家レベルの問題でれば、我々特領が出るのは必然。心当たりはあるだろう?」 「私が言っているのは――」 文月は自分に向けられる銃口の一つ一つを見回して、 「――この程度の人員で、私に何をするつもり?」 ――文月・心理技能・発動・殺気放射・成功! 殺気に気圧されて、包囲の者たちが後ずさった。 冷や汗を流しながら、矢村が背の弓を手に取った。 「……この程度、とは言ってくれるな。確かに個人戦力では貴女に及ばないだろうが、集団戦ならば易々と狩られはしないぞ」 「判った」 答えた時には文月は走り出している。 矢村との距離は約八メートル。 その距離を、文月は技能も用いず一瞬で詰める。 下駄による足音とは木を打つ堅音だ。 足音を甲高く鳴らし、文字通りの一瞬で距離を詰め、 「!」 斬撃。 ――文月・剣術(ソード)技能・発動・物体切断・成功! 矢村は対抗判定(リバーサル)。 だが遅い。 ――矢村・回避技能・対抗発動・回避・失敗! 裂音。 文月の木刀が、矢村の長弓を断ち割った。 「な……!」 「素直に退いたのなら無視したけど――」 ――矢村・脚術/回避技能・重複発動・バックステップ・成功! 矢村は遠隔武術師(ストライクガンナー)としての癖で反射的に飛び退く。 が、文月はその動きに追いつく。 ――矢村・脚術/回避技能・重複発動・サイドステップ・成功! ――矢村・脚術/回避技能・重複発動・跳躍・成功! ――矢村・脚術/回避技能・重複発動・疾走・成功! 矢村は振り切ろうと足掻くが、下駄の堅音を振り切れない。 「技能で振り切れない!? ――神陰流か!」 「――邪魔をするのなら、相手になる」 文月の歩法は神陰流の流れを汲んだものだ。技能では逃げ切れない。 包囲する者たちは、矢村への誤射を恐れて発砲できない。 「この……!」 矢村が背の矢筒から矢を引き抜き、 ――矢村・槍術/腕術技能・重複発動・突き・成功! ――文月・剣術技能・対抗発動・切り払い・成功! 放った突きの一撃を右の一刀で切り払い、文月は左の一刀を矢村の胸元へ突きつけた。 そして、 「あ」 単音の詞(テキスト)。 五行(バスト)の光撃が矢村を打撃した。 「――――!?」 言葉にならない悲鳴をあげ、矢村が吹き飛ぶ。 包囲の者たちが表情に怯えを見せ、包囲の輪を広げた。 ジェイドがやや不安げな表情で、 「あの……いいんですか?」 「昔の同僚だから手加減はした。骨折程度で済むはず」 「はあ」 返事とも溜め息とも取れる息を漏らす息子に構わず、文月は包囲の者たちへと向き直り、 「手加減するから安心して」 直後、十二秒で全員を吹っ飛ばした。 ○ 小一丸が告げた直後、通話は切られた。 受話器を置き、深く息を吸い、 「――はあぁ~。……って痛――!?」 疲れとともに吐き出すと、筋肉の収縮が胸の傷に響いて悶絶した。 「うう。おユキさんは怒らせるし兄さんには迷惑かけるし田中にやられた傷は痛むし、なんかもう天中殺っすよ。貧乏神とか疫病神とか凶々星とかそんな感じのにしこたま憑かれてる気がするっす。肩とか背中とかにぞこぞこと。――渦呪都市(カースシティ)―邪馬形に行った覚えはねえっすのに」 どっかで御祓いとかしてもらうっすかね、と呟き、 ……兄さんは、勝てるっすかねえ? と、思考する。 田中・核衛は強い。 実際にやられてみて、その強さは思い知った。田中は殺括者(キリングホルダー)の力を持っている。 人を傷つけることを恐れず、自らが傷つくことを恐れず、他者の喪失を理性で無視できる強者。 それが殺括者だ。 最も多くを殺した者(ジェノサイダー)の字名(アーバンネーム)は誇張ではない。間違いなく、田中は最強の殺括者だ。 そのうえ田中は、王系殺括者(ロウリズム・キリングホルダー)の力、遺伝詞凍結という力も持っている。 炎の遺伝詞すら凍て付かせる力だ。攻撃力や防御力を神器や神術、武具に頼る者や、遺伝詞系戦種では勝ち目が薄い。 田中に対して勝算が高いのは、純粋な肉体のみで戦う格闘師――それも田中と同等かそれ以上の力を持つ者だけだ。 そして長野圏総長連合の面子で、その条件に合致するのは、 ……総長である深視姐さんと、非常勤の荻原兄さんだけっす。 長野圏総長連合最強にして最大戦力である、総長の遠隔格闘師(クリティカルガンナー)、筑摩・深視。 殺人術の伝承者であり殺外者(キリングメイカー)の字名を持つ、第一特務の近接格闘師(クリティカルフォーサー)、荻原・蔵人。 彼我の格を考えれば、新潟圏総長である田中・核衛には、長野圏総長である筑摩・深視との決闘を組むのが正道だろう。 だが副長補佐、上杉・信繁は言った。 ……総長が最初に戦って、万が一にも負けてしまったら? 総長の敗北はその圏の総長連合そのものの敗北に等しい。 総長は負けてはいけないのだ。 そう前置きし、上杉は言葉を重ねた。 ただの非常勤隊員である荻原・蔵人をぶつけて田中を損耗させ、あわよくば勝ちを拾おう。 負けても隊員一人が負けた程度では長野圏総長連合の敗北ではない、と。 ……戦略としちゃ、正しいっすよね。 間違ってはいない。戦略としては正しい。 だが、と小一丸は考えてしまう。だが、と。 「……姐さんが負けるかもしれないと思うこと、兄さんの勝敗はどうでもいいと思うこと――」 それは、 「姐さんの勝利も、兄さんの力も、信じていないってことっすよね……」 一息。 「……俺も信じられなかったから、その指示に従ったっすよ、と」 疲れた口調で詞を吐き棄て、傷の痛みに舌打ち。 天井を見上げ、目を閉じた。照明の人工光が消え、瞼の裏の闇が視界となる。 何も映らぬ暗闇に浸り、小一丸は苦笑を一つ。 「――いつか、信じられるようになりたいものっすねえ」 ○ ――常念岳 かつて常念坊という風水師が変じた大地竜(アーサーペント)の山は、標高2,857メートル。 観光地として登山客が多く訪れるこの山も、冬には人影が少ない。 が、その少ない人影が山頂にあった。 人影は三つ。一人は槍を持った巫女服姿の女であり、一人は着物に下駄という服装で、両の腰に二振りずつ、両肩の後ろに一振りずつ、そして背中に一振りの計七刀を携える女であり、一人は紺色のスーツ姿の子供だ。 槍を持つ女は、山頂に作られた木の祠の雪を祓い、詞を放った。 「この地を支える遺伝詞達。かつて鎮めの力となり、いまここに鎮めの地とある竜の意志よ。聞こえていますか? 私の詞が」 風水五行の基本、楽府式首聯(ワインドアップ)だ。 だが微妙に違う。最後に対象に確かめるものが、遺伝詞ではなく詞であった。 女は神形具の槍を祠の前、雪に包まれた岩塊の奥深くに突き刺し、 「浸(しん)」 と、遺伝詞を伝えた。 しかし、周囲に変化はない。 雪に覆われた岩の地面も、冷たく吹き寄せる風も、風水した女自身も、何一つとして変化がない。 が、女の顔に落胆の色は微塵もない。あるのは一仕事終えた、という満足感だけだ。 何も起こらないのは、そういうものだからだ。 女は槍を引き抜き、背後でその作業を見ていた二人を振り返る。 そして言葉を放った。 「――四年ぶりね、お隣さん」 「久しぶり」 「今日は何の用かしら」 「あなたに用があるわけじゃない」 「そう――」 僅かな応答に笑みを浮かべ、女は槍を構えた。 戦いに備えるために。 「ならば何をしに来たのかしらね? 荻原・文月。この常念岳守護役、矢村・紗月が護る――竜在る山に」 その言葉に、相手は一つの対応を見せた。 両の腰に二振りずつ佩いた刀の柄に、手をかけたのだ。 戦闘の構えに、文月の傍らに居た子供が声をかける。 「母様……」 「下がっていて。――紗月も、この子には手を出さないで」 「子供を害する親はいないわよ。……ところでその子は貴女の息子でいいのかしら?」 「当然。私の息子。名前はジェイド」 「硬玉(ジェイド)ね……蔵人君も喜ぶわね、弟が出来て」 「妹も作った」 「そう。……じゃあ喜び二倍ね」 言い、両者は子供が戦闘の邪魔にならないところに下がるまで沈黙した。 構え合う二人を、ジェイドは不安そうな瞳で見つめる。 そして、 「あ」 荻原・文月が先制の五行(バスト)を放ち、 「浸」 矢村・紗月が迎撃の竜を起こした。 ○ 居合いの速度を上乗せした文月の五行は、超高速の光撃となって紗月を斬撃する。 が、それは防がれた。 破砕音。 己の身体で光を防いだのは、一匹の小竜(レッサードラゴン)だ。体長二メートルほどの、黒の鱗を持つ土行の竜。 紗月が攻撃を受ける一瞬前、事前に描いておいた風水紋章(チューンエンブレム)に眼点(タクト)して起こされた竜だ。 通常の風水のように遺伝詞操作で竜を生んだのではない。 竜が変じた常念岳の持つ“竜”という遺伝詞を起こしたのだ。原理で言えば、英国でいう外燃詞(オープン)に近い。 破! 黒の小竜が吼え、周囲の遺伝詞から破壊された部位を修復する。 紗月は眼点に使った槍の代わりを懐から取り出した。 短刀だ。一振り、という動作をもってそれは槍となる。 新たに出した槍を構え、紗月は笑みで告げる。 「矢村の血族が常念岳においてのみ使える、起竜の風水。――どうかしらね?」 その言葉に、文月はひとつの表情を見せた。 それは目を細め、口元を僅かに吊り上げた表情。 獲物を狩ろうとする肉食獣の表情だ。 その口から発される言葉は、 「――面白い」 「喜んでもらえて嬉しいわ。では、――撃ちなさい!」 紗月の命令に小竜は正しく従った。 口を開け、光を放ったのだ。 竜詞砲。 身体を作る遺伝詞を己の掛詞に乗せて放つそれは、竜属における最大の攻撃方法だ。 光は一直線に文月を狙い、 ――文月・体術/脚術/回避技能・重複発動・大跳躍回避・成功! 跳躍によって回避された。 文月の位置は一気に黒の小竜の真上に。 竜の一撃は標的を外して冬の大気を射抜き、 「あ――」 と、上空から返礼の遺伝詞が小竜を穿った。 そしてそれは一撃で終わらない。 「あ、あ、ああ――」 右腰の一刀から左腰の一刀、両腰の二刀と居合いの五行を連撃。 超高速の五行の連続に、竜は有効な対応を取れない。 そこに、 「――あああああああっ!!」 落下の勢いも鋭く、文月は両肩の二刀を竜に振り下ろした。 斬断。 そして二刀を突き刺したまま、 「あ」 五行。 神形具(デヴァイス)で増幅(アンプ)された文月の遺伝詞が、竜の体内に炸裂。 威の連続にもはや黒の小竜は耐え切れず、流体に還元した。 やるわねえ、と紗月は微笑。神形具の槍を手に一歩を後退し、 「じゃ、次は四匹同時でどうかしら?」 積雪に隠した風水紋章に眼点した。 同時、周囲三箇所に描いた風水紋章も起動し、四匹の竜が起きる。先ほどよりも大きく、一匹の体長はおよそ五メートルほど。 同一神形具間の共鳴発動(ハウリングホイッスル)を利用した同時起竜だ。 「夫から貴女が来るかもしれないと聞いて、張り切って準備したのよ。――有り難いものよね、矢村の血脈は。私程度の力量で、大量生産の神形具を使って、なおこれだけの竜を起こせるのだから」 苦笑。 「……で、どうかしらね?」 四匹の黒竜の視線を一身に受けた文月は、四対の竜眼をしっかりと睨み返し、 ――文月・心理技能・発動・威圧・成功! 笑う。 獰猛な笑みを浮かべ、背の一刀を引き抜いた。両腰両肩の小太刀六刀と違い、長刀というべき長さを持った刀だ。 雪月花、という名前を持つ神形具である。 それを正眼に構え、言い切る。 「――この三倍でも余裕」 ○ 四匹の黒竜が口腔に力を溜める。 竜詞砲を放つつもりだ。 対し、文月は正眼に構えた神形具を横に。切っ先が背に隠れるように構えをずらし、 「あ」 と放つ遺伝詞は、もはや金属の遺伝詞を含んだ白光ではない。陰りを含んだ、淡い光。 月の光だ。 文月自身の遺伝詞である。 月光色の遺伝詞による五行が横薙ぎに放たれる。 同時に、竜詞砲が放たれた。光熱の直線射撃の数は四本。それは月光色の遺伝詞と衝突し、 「砕く」 相殺した。 硝子の砕音を響かせ、熱と光の遺伝詞が大気に踊る。 文月の攻撃はそれで終わらない。 ――文月・心理技能・発動・記憶再生(イメージリピート)・成功! 一撃を放った動作、その記憶を強く思い出す。 強く外燃詞(オープン)された記憶遺伝詞は、長野の特性に従って反響(リフレクス)。 それによって生まれるのは、 「二撃目」 先ほどとまったく同じ動作の五行が意識せずに放たれた。 円弧を描いて飛んだ月光色の遺伝詞は、空間に漂う光熱の遺伝詞を断ち切って更に前に。 四匹の竜へと、その威をぶちまけた。 四竜は月光色の斬撃に鱗を砕かれ、身体を損じ、しかし、 「まだまだ、よ」 耐えた。 崩! という咆哮と共に、竜達が文月へと跳びかかり、 「詞変(ワード・アクセル)! 十二万詞階(オクターブ)の遺伝詞(ライブ)達よ!」 紗月が追撃の風水打撃を放つ。雅式首聯(オーバーラップ)で作られたのは風の槍だ。 四匹の竜の突撃と風の槍を前にしても文月は恐れない。 長刀を地に突き刺し、両腰の小太刀に手をかける。 「あ」 と瞬時に放たれる光は、文月の月光色の遺伝詞と、小太刀の金属の遺伝詞が混ざった白い詞色の遺伝詞。 居合いという速度を持った白光は同時に二条が放たれた。 それは四匹の竜のうち二匹を穿ち、しかし砕き切れず、それでも勢いを衰えさせ、 ――文月・剣術/投術技能・重複発動・左右小太刀投擲・成功! 納刀の勢いで投じられた小太刀が、その二竜を断ち割った。 建御名方刀術の奥の手、射刀術だ。 抜刀の五行。納刀の射刀術。 文月の居合いの真髄とは、それら二つの動作を組み合わせ、居合術として一動作とした高速攻撃だ。 残る竜は二匹。文月は同じ動作を繰り返す。 「あ」 と抜刀の五行を放ち、 ――文月・剣術/投術技能・重複発動・左右小太刀投擲・成功! 納刀の射刀術で仕留める。 最後、一直線に飛んできた風の槍を、 ――文月・剣術技能・発動・逆袈裟・成功! 地に突き刺しておいた長刀を掴み、そのまま振り上げて迎撃した。 文月は紗月に視線を向け、 「これで終わり?」 「……あと十個ぐらい描いとくべきだったかしらね、風水紋章」 「そもそも戦法がなってない。……竜の本能に任せてるだけじゃ、駄目」 「今まではそれで何とかなるような連中しか来なかったから……ね。やっぱり貴女には敵わないわぁ」 「そうでもない。……紗月が本気で来てたら、私も危なかった」 呟き、文月は紗月の瞳をしっかりと見据えた。 「なぜ、本気を出さなかったの?」 「そうねぇ……」 頬に手を当て、紗月は微笑。 「――だって貴女、遺伝詞に殺気がないじゃない?」 一息。 「貴女が本気になってないのに、私が本気になれるわけないでしょ」 「……ごめん」 文月は頭を下げた。紗月は苦笑。 苦い笑みを浮かべて、 「……本命は、息子さんだったのね?」 紗月の視線の先、常念岳頂上の祠があった場所に、一つの樹が生えていた。 いつの間にか生えているその樹は、自然のものではない。 恐縮そうにジェイドが頭を下げ、言う。 「超人紋章(スーパーエンブレム)“聖伝樹(レジェンド)……地脈、少し弄りました。ごめんなさい」 言葉と同時に樹が掻き消えた。 ジェイドが超人紋章を解除したため、流体に還元したのだ。 紗月は溜め息を一つ。槍を肩に担い、 「やっちゃったことは仕方がないわねえ。……まったく、また一月ぐらい山篭りして地脈の整調化しないと」 「……ごめん」 「謝るぐらいなら最初からやらないで欲しいのだけど?」 「違う。それはさっき謝った。……今のは、あなたの旦那の分」 文月の言葉に紗月は半眼で問うた。 「……何したの?」 「全治一ヶ月ぐらい」 「……下山したら、私の娘に伝えて頂戴。――両親ともども一ヶ月ほど家を空けます、と」 「判った」 紗月は再度溜め息。 と、音が響いた。 風の重なりによって生まれる音だ。 それは一つの掛詞(メッセージ)を持っていた。 鎮魂という掛詞だ。 「……鬼が出てたのね」 紗月が下界を見るのに合わせて、文月もそちらを見た。 戦闘の所為か、霧が出てきていた。下界は見えない。 しかし霧の先を見て、紗月は呟いた。 「起竜とか地脈改造とかのせいで、少し遅れたかしら。……誰かが傷ついてないといいんだけれど」 ○ 芙雪が戻ってきた。 うつむき加減の顔色は暗く、足取りも重い。 「……どうした?」 問いに芙雪は一瞬顔を上げ、しかしまたうつむいた。 消え入るような小さな声音で、 「……第一特務は、事実上壊滅したみたいだ」 「それはさっき聞いたぞ」 「……詰め所にいた全員が負傷して、――平林が死んだ」 告げられた言葉に蔵人はやや考え込み、 ――蔵人・心理技能・発動・人物照合・成功。 技能に成功するが記憶にはない。 「誰だそれは」 「神術師の……」 告げられたキーワードに蔵人は再度考え込み、 ――蔵人・心理技能・発動・人物照合・成功。 技能に成功するがやはり記憶にはない。 「いや。判らん」 きっぱりと告げる。と、なぜか芙雪は溜め息をひとつ。 「……蔵人って第一特務のメンバー、小笠原隊長とアズマしか把握してないだろう」 「それとおまえだな。別に毎日顔出してるわけでもないしそれで充分だと思うが」 「……蔵人にそういう、人間関係の暖かさを期待するのは無駄かな」 「そうだな」 一息。 「――ところで、話はそれで終わりか?」 「…………」 芙雪は沈黙。 そして唐突に抱きついてきた。 「……ユキ?」 背から抱きついてきた芙雪は腕をこちらの胸へと回し、張り付くように身体をすり寄せる。 蔵人はややうろたえながらも、振りほどくようなことはせずに考える。 ……何があった? 芙雪は割と無防備な性質であり、男が誤解するような言動を天然で実行するが、それにしてもこれは唐突だ。 何故か、と考えるが、判らない。 判ることは、 ……不安なのだな。 抱きしめて存在を確認したいほど、不安なのだろう。 つまりは、 ……おれが危害を受けるかもしれない、ということか? 蔵人は抱きついたまま言葉を発さない芙雪の手を取り、握った。大丈夫だ、とでも言うように。 そして、言う。 「――ユキ、何かあるならば言ってくれ。おれはおまえと違って、言葉で伝えられなければ判らない」 NEXT
https://w.atwiki.jp/windowsphone7/
このページは米国、欧州、タイで発売されているWindowsPhone7OS搭載スマートフォンの総合ウィキです 主に国内に置けるレビューやプログラミング関連の記事をまとめております 開発環境のダウンロードはこちら http //msdn.microsoft.com/ja-jp/ff380145.aspx レビュー GIGAZINE http //www.gizmodo.jp/2010/10/windows_phone_7_7.html 購入レポート ななふぉさん(機種:HTC HD7) http //nanapho.jp/archives/2010/11/htc-hd7-self-unlock/ kaorunさん(機種:HTC HD7) http //d.hatena.ne.jp/kaorun/20101204/1291447036 赤坂玲音さん(機種:HTC HD7) http //d.hatena.ne.jp/LeonAkasaka/20101206 電話にでんわさん(機種:HTC HD7) http //oniku.blog.ocn.ne.jp/denwa/2010/12/wp7_windows_pho.html Kent Takagiさん(機種:HTC HD7) http //kenttakagi.wordpress.com/2010/11/12/hd7/ ch3cooh393さん(機種:HTC 7 Mozart) http //d.hatena.ne.jp/ch3cooh393/20101221/1292949500 iseebiさん(機種:HTC Surround) http //d.hatena.ne.jp/iseebi/20101223/p1 WindowsPhone7アプリを開発している方 iseebiさん http //d.hatena.ne.jp/iseebi/20101223/p1 tmytさん http //windowsmobile-dev.g.hatena.ne.jp/tmyt/20100817/1282037375 http //d.hatena.ne.jp/tmyt/ takuya1925さん http //d.hatena.ne.jp/takuya1925/ zisakuhaさん http //d.hatena.ne.jp/zisakuha/
https://w.atwiki.jp/nijiura_city/pages/687.html
○ 冬の朝というものは、当然だが非常に寒い。 暖かい布団から冷気漂う外界に出るのは、非常に躊躇われるものだ。 「しかし起きないわけにもいかんしな」 呟き一つで蔵人は起床。軽く伸びをしてから、芙雪が寝ている客間へと向かう。 なにやら芙雪の父は怪我をしたとかで帰宅せず、母の方は常念岳の鎮守の役で山篭り中。そういう時、芙雪は荻原家に泊まることになっている。娘一人では危険だから、というのが芙雪の母、紗月の言葉だが、 ……隣なのだから、何かあればすぐ気付くだろうにな。 と思わないでもない。実際、芙雪の父の誠はそう主張していたはずだ。 だが四年前の矢村・荻原家合同家族会議の結果、娘を思う父親の主張はあっさりと退けられた。 当時はよく殺気混じりの視線を向けられたものだ。今ではもはや諦観の視線だが。 「……しかし、どうしたものかな」 ふと昨夜の芙雪の話を思い出して、腕を組む。 新潟圏総長、田中・核衛によって第一特務が壊滅し、連合員名簿が奪われた。 しかし奪われた名簿は偽物で、正しい情報は荻原・蔵人のものだけだという。 ……まずおれをぶつけて相手を試そうということか。まあ、すぐに襲われるということはないだろうが。 情報の真偽を確認するのには、それなりに時間がかかるだろう。 しかも誤情報の中で一人だけ正しい情報があったとすれば、普通の人間は罠だと思うはずだ。 ……とはいえ、総長が普通の人間であるはずがないしな。 例えばこちらの総長、筑摩・深視のような性格だったら、罠と罠と知りつつも罠ごと叩き潰そうとするだろう。 そして田中・核衛がそういう性格でないとは言い切れない。何しろ同じ総長だ。 「……どうしたものかな」 蔵人は嘆息した。 ○ 蔵人に起こされ、朝食をとった後にいろいろと話し合った結果、 「面倒だからとりあえず総長に話してみたらどうか」 ということになった。 総長、筑摩・深視の性格上、今回の件は副長補佐、上杉・信繁の独断だろうと推測できたからだ。 そういうわけで、豊科駅から大糸線を使って松本、総長連合本部のある時計博物館へ向かっている。 服装はもしものときに備え、戦闘用でもある制服を着用。当然、弓と矢筒も持っていく。 「……しかし、あの総長に会うのはあまり気が進まんな」 電車に揺られていると、蔵人が呟いた。 「そういえば蔵人は深視総長のこと苦手だっけ?」 「ああ。以前、敵味方もろともにブチのめされたからな。『目の前に立つ者を全て壊す女』という字名をしっかりと味わった。――というかあの字名は比喩にしておいた方がよいと思うが」 「んー、でもまあ、悪い人じゃあ……」 言いかけ、言いよどんだ。 ――芙雪・心理技能・自動発動・記憶再生・成功。 反射的に色々と思い出し、 「……ええと、その、――た、頼れる人ではあるぞ?」 「総長が頼りなくてどうする」 「よく手作りお菓子とかくれるし。ほら、蔵人も貰ったことあるだろう?」 「確かに旨かったが、それは餌付けと呼ばないか?」 「……うーん」 言われ、悩む。確かにそんな感じではあった。 「――とにかく、毒舌で攻撃的で破壊力至上主義で突飛な言動が多い人だけど、だからこそ頼りになる人だぞ」 「そうなのか?」 「……蔵人。そこは、そうだな、って頷いて欲しい」 「そうだな」 一言が返って来て芙雪は苦笑。 窓の外、流れる景色を眺めながら、 「父さんか母さんがいれば、少しは助言もらえたかな」 「うちのは駄目だな。やられたらやり返せしか言わんぞあの二人は。四年前に一度だけ帰って来た時もそうだった」 「それは……、文月さんも啓地さんも、その、――個性的だから」 「個性か……。実の息子に刀を突き付けてキャッチボールを強いる母親は、まあ個性的ではあるな。面倒だと答えたら皮一枚切られたがな」 そう言って蔵人は首筋を撫でる。 見ると、言葉では嫌そうだが、遺伝詞に不快の詞色はない。 「文月さんは野球、好きだから。蔵人にも好きになって欲しかったんだと思う。野球、嫌い?」 「……まあ、野球は嫌いではないな。好きでもないが」 「毎日朝夕に投球練習してるのに?」 「それは、……次帰って来た時に自分からストライクが取れなければ薄皮剥ぐと脅されたからだ。大体、昨夕と今朝はサボった」 仏頂面で言いつのる彼に、笑みで返す。 「蔵人は誤魔化すのが下手」 「……そうだな」 一言だけの答えが返って来て芙雪は苦笑。 と、そこで車内アナウンスが響いた。 窓の外には駅のホームが見える。 『次は終点、松本、松本ー。お降りの際は、もう一度お手回り品をお確かめください。終点、松本です』 ○ まだ自動改札になっていない改札口で駅員に切符を見せ、駅を出る。 さすがに人が多い。蔵人は芙雪を見やり、顔色を見た。 「大丈夫か?」 「うん。平気」 協音の領主という遺伝詞特性を持つ芙雪は、無意識のうちに周囲の遺伝詞と同調してしまう。 よって、人ごみに酔うということが良くあるのだ。朝の出勤ラッシュなどは確実に酔う。 「さて、本部に行く前にそこのコンビニで餌でも買っていくべきか?」 「餌って……、まあ、差し入れぐらいは持っていくべきだと思うけど」 言い合い、駅前のコンビニへと向かう。 歩きながらあたりを見ると、何故か人通りが少なくなっている。 ……平日だからか? 学生は冬季休業で休みだが、今日は平日だ。 そのせいだろうか、と適当に結論づけると、歩道の先に一人の男が立っているのに気付いた。 巨躯の男だ。手足は長く、服装は白の防寒着と積雪用のブーツ。フードを目深にかぶっているため、顔は見えない。 「…………」 「蔵人?」 手で芙雪の歩みを制して、問う。 「――ユキ?」 「どうした……の?」 「聞くのを忘れていたが、新潟圏総長とはどんな奴だ?」 「えと、王系殺括者で、最も多くを殺した者で、雪王神器による遺伝詞凍結を武器とする格闘師で――」 「外見だ。顔とか、服装とか、体格とか」 「んー、わたしはよく覚えてないんだ。写真で一回見ただけだから。小笠原隊長かアズマなら写真持ってるはずだけど」 「なら思い出せ。――田中・核衛とは、あれじゃないか?」 「え?」 こちらの視線の先に立つ男を見て、芙雪は一瞬動きを止め、 ――芙雪・心理技能・発動・人物照合・成功! 背の弓を抜き、矢筒から対魔戦闘弓箭を引き抜き、弓につがえ、弦を引き絞り、 「――あれが田中だ!」 ――芙雪・弓術技能・発動・速射・成功! 一矢を放った。 矢は流体を纏って光槍となり、男へと向かう。 そこに詞が響いた。 冷たい響きを持つ詞だ。 凍結、という意志を持った詞である。 それは、男の口から紡がれた。 熱 音 色 風 全ては停止の定めにある 人 心 時 詞 全ては凍て付き動かない 深々と―― ――田中・雪王神器・発動・遺伝詞凍結・成功! 音も無く。 瞬間的に凍結した光槍は、速度すら凍結されたかのように地に落ち、破砕の音を響かせて流体に戻った。 男が言う。威圧、という力を持った雄々しい声で、 「――新潟圏総長、田中・核衛」 ○ 蔵人は芙雪をかばうように前に出た。 「――新潟圏総長が、何の用だ」 「見え透いた策を潰しに来た。……長野の総長連合は余興が多いな。下らん余興が」 「余興、か」 田中の台詞に適当に返し、蔵人は意思を外燃詞(オープン)。背後の芙雪に遺伝詞(ライブ)で問う。 ……ここは総長連合本部の近辺だぞ。なぜ奴がここにいる? 『第三特務は侵入される時にやられたし、第二特務は輸送で忙しいから……ひょっとしたら警戒網自体が機能してないかも』 返答は、爪弾きによる小さな鳴弦と共に耳元に来た。こちらのみに聞こえるような、小さな空気の振動として。 芙雪が風水(チューン)を用い、大気に喋らせたのだ。 本来なら高位の風水師でもなければ出来ない技だが、協音の領主である芙雪は周囲の遺伝詞と同調することでそれを容易に行える。 『第一特務(ウチ)も隊長は姫路に出張中でアズマも動けないから……実質、今の長野で動けるのは隊長格だけだと思う』 ……しかしおまえは無事だろう? どうにかできなかったのか? 『無理。第一特務の皆はほとんど入院中で動けないし。……わたしはアズマみたいに顔が広くないから』 ……どうにもならんと言うことか。 嘆息を一つ。と、田中が言ってくる。 「相談は終わったか?」 ――蔵人・心理技能・自動発動・抑制・成功。 驚きを技能で押し込め、聞き返す。 「……遺伝詞が読めるのか? 言葉にはしていなかったはずだが」 「遺伝詞など読む必要は無い。態度で知れる」 言い切り、田中は防寒着の懐に手を入れた。 ――蔵人・戦術/心理技能・重複発動・行動推測・成功! その手が引き抜かれる前に、蔵人は動作を起こした。 動作は二つ。そして一つだ。 ――蔵人・体術技能・発動・飛び退り・成功! ――田中・投術技能・発動・棒手裏剣投擲・成功! ――蔵人・腕術技能・対抗発動・迎撃・成功! ――蔵人・腕術/体術技能・重複発動・抱き抱え・成功! 後退と同時に田中が投げ打ってきた鉄の投擲物を右の手甲で弾き、空いている左腕で芙雪を抱き抱える。 「え……蔵人!?」 いきなり抱き抱えられた芙雪が腕の中でわめく。 が、蔵人は無視。彼女を右手に持ち直して担ぎ上げ、 「投げるぞ」 ……この場を離れて本部へ行き、応援を呼んで来てくれ。 言葉と遺伝詞で同時に告げる。 「ちょっ、――い、意図は判ったけど力技が過ぎるぞ――!?」 ――蔵人・投術/腕術/体術技能・重複発動・投げ飛ばし・成功! 構わず投げた。 「っきゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――」 ドップラー効果で小さくなっていく悲鳴を聞きながら、 ……意外に良く飛ぶな。空気抵抗は大きいはずだが。 しみじみと思っていると、頬に風が来た。 痛みが走る。 「女を逃がしたということは、一人で死にたいということか」 田中が再度の投擲を行ったらしい。しかも、 ……わざと外したな。遊ばれているのか。 だとすれば、最悪でも死ぬことはないだろう。 覚悟を決めて田中に向き合う。 田中はつまらなそうな表情で、腕組みをしていた。戦闘の構えではない。 「つまらんな。二人がかりならば少しでも楽しめるかと思ったが」 「……戦いが楽しいのか?」 問いに、田中は答えた。 ああ、と頷き、 「身の程知らずの雑魚が絶望する様は、愉快ではあるぞ。実に滑稽だ」 「……理解できんな」 「貴様の器が足りんからだ。小人(しょうじん)が」 「その小人をわざわざ襲撃したのは、何のためだ?」 ふん、と田中は鼻を鳴らし、 「字名に殺の字を抱く者が気になった。それだけだ。だが……」 そこで言葉を切り、田中は懐に手を入れた。 ……来るか!? 蔵人は投擲に備えて右手を前に構える。左の手甲は硬質樹脂板が貼り付けてあるが、右の手甲は鋼板を貼り付けてある。 左では手甲を貫通される恐れがあるが、右ならば先ほどと同じように弾くことが可能だ。 構えを取り、蔵人は戦闘を組み立てる。 ……芙雪が応援を呼びに行った。十分もあれば本部に居る者を連れてくるはず。 もしかしたら総長はいないかもしれないが、副長か、副長補佐はいるだろう。 副長や副長補佐では新潟圏総長に敵わない可能性が高いが、 ……その時は任せて逃げればいい。最後まで戦う義理はない。 荻原・蔵人は隊長格ではない。総長に襲撃されるような要人ではないのだ。 つまり、この戦いにおいて蔵人が注意することは、生き延びることだけだ。 ……出来るはずだ。 自身に言い聞かせて、蔵人は田中に集中する。 ――蔵人・視覚技能・発動・注視・成功。 攻撃の初動を待つ。 数秒とも、数分とも、数瞬とも判らぬ時間の後に、 「!」 田中が動いた。 だが投擲の動きではない。 「!?」 身体をひねり、肩を前に向け、やや前傾姿勢での突進。 ショルダーチャージだ。 「く――」 ――蔵人・回避/体術技能・対抗重複発動・回避・失敗! 唐突の攻撃に対応が出来ない。 打撃を受けた。 田中は巨躯であり、体重も相応に重い。 その重量をすべて叩き付けられたような、重い打撃だった。 「っは――」 肺の中の息を吐き出し、膝を突き、 ――蔵人・回避/体術技能・対抗重複発動・バク転・成功! 反射的にバク転でその場を飛び退いた。 その直後だ。 目の前で力が炸裂した。 力の向きは下向きで、結果としては道の舗装の破壊。行為の名前は踵落としだ。 道の敷石が打撃力に負けて破砕した。 ……この破壊力は……総長並か!? 蔵人は驚きながらも飛んで来た砕片を弾き飛ばし、 「――やはり殺外者(キリングメイカー)ではこんなものか」 「!?」 ――蔵人・回避/体術技能・対抗重複発動・スウェー・失敗! 石の砕片ごと打ち砕く拳打を受けた。 打撃音は、骨の砕ける音を伴っていた。 肋骨が折れたのだ。 「ぐっ……!? ――蔵人・心理技能・発動・痛覚無視・成功。 蔵人はなんとか痛みを無視し、打撃の威力が残る身体で無理矢理に距離を取った。 田中は追撃してこない。つまらなそうな表情で、打撃した腕を軽く振っただけだ。 蔵人は息を整えようとあがきながら、田中を見る。 ……予想以上にリーチが長い……! 今の一撃は、不意の一撃というのもそうであるが、それ以上に相手のリーチが長かった。 スウェーで避けようとしてなお、直撃する拳だ。 ……手足が長いのもそうだが、身体が柔らかいのだな。だから見た目以上に伸びる……。 「つまらんな」 田中が呟いた。 「やはり死を己に持たぬ者では座興にもならん。殺人術とやらを使ってみせろ」 「……使え、と言われて使うような技ではないのだがな」 「何を勘違いしている? 立場をわきまえろ――」 ――田中・心理技能・発動・威圧・成功! ――蔵人・心理技能・対抗発動・威圧反射・失敗! 「――俺が、使ってみせろと言ったのだ。貴様はただ従えばいい」 「……期待に沿うような技ではないぞ」 蔵人は構えを取った。 両方の掌を顔の前に向け、重心は右足。体勢は軽い猫背。 構えたこちらを見て田中は拳を握り、 「――来い」 返答はせずに蔵人は距離を詰めた。 ○ 殺人術は何のためにあるか。 それを祖父に聞いたことがあった。 ……自分よりも強い相手に勝つため――か。 思いながらも蔵人は拳を放つ。 威力のある右拳。だが田中の筋肉の防御を穿てるほどの威力は無い。 ――蔵人・腕術技能・発動・正拳・成功。 ――田中・腕術/回避技能・対抗重複発動・弾き・成功。 放った拳は容易に弾かれ、 ――田中・体術/脚術技能・重複発動・回し蹴り・成功。 ――蔵人・体術/回避技能・対抗重複発動・しゃがみ回避・成功。 その動作の反動を使って放たれた右回し蹴りを、蔵人はしゃがんで避ける。 田中の攻撃はそこで終わらない。 ――田中・体術/脚術技能・重複発動・姿勢制御・成功。 ――田中・脚術技能・発動・踵落とし・成功! 強引な動きで蹴りの軌道が変化した。 身体能力が優れているというだけでは出来ない技だ。 田中は自分の肉体、動作というものを、完全に制御しているのだ。 蔵人は再度思う。殺人術が何のためにあるかということを。 殺人術が存在するのは、自分よりも強い相手に勝つため。 だが、 ……それにしても相手が強すぎるだろう!? 遺伝詞で叫んで蔵人は攻撃に対処する。 ――蔵人・腕術/回避技能・対抗重複発動・迎撃・成功! 放つ拳は左腕。 狙う箇所は脚の関節。 着弾。 拳打の衝撃が拳から腕に、腕から肩に、肩から胸に伝わり、折れた肋骨を響かせ、痛みを生んだ。 ――蔵人・心理技能・発動・痛覚無視・成功。 痛みは無視できるものだ。 関節を打ったことで田中は一瞬だけ動きを止めた。 その一瞬を使って蔵人は回避。 反撃に移る。 ――蔵人・腕術技能・発動・ジャブ・成功! 弧を描く軌道で放ったのは右の拳。だが、拳打は囮でしかない。 本命は右の手甲の鋼板。その角を利用した、無手での斬撃だ。 肉より硬いものであれば人は切れる。通常は爪で行う技だが、蔵人はまだその域に達していない。 狙うのは田中の手首。その動脈だ。 ……出血させて、体力を奪う! 田中も対衝撃反射素材(ASRA)のインナーは着ているだろうが、それは斬撃に対する防護効果を持たない。 切れる。そう思った瞬間だ。 硬音。 「!?」 金属と金属の衝突した音だ。 拳から衝撃が伝わって来た。 拳の先を見れば、田中の足がある。積雪用ブーツを履いた足が。 先ほど踵落としとして振り上げた足。その足で防御されたのだ。 「……どういう靴だ」 「硬化の紋章を彫り込んである。生半な打撃では傷すら付かん」 「――防寒着もか?」 「そちらはただの防刃製だ。硬化の紋章では動作に支障が出る」 「入念なことで実に結構だな……」 飛びのき、距離を取る。 田中は追撃せず、言葉を放ってきた。 「やはりつまらんな。所詮、殺外者は殺外者か」 「おれは」 なぜか言葉が出た。 反論などするつもりもなかったのに、だ。 出してしまったのなら、すべて吐き出すしかない。 蔵人は言葉を吐き出した。 「――おれは、殺外者で充分だと思っている」 田中は露骨に蔑みの表情を見せた。 「下らん。それは覚悟を持たぬ弱者の強がりだ」 「おれは覚悟など持てない」 言葉が止まらない。 「おれは強者になどなれない」 一度出してしまった言葉は、すべて吐き出すまで止まらない。 「祖父さんは言った。殺人術とは、自分よりも強い相手に勝つためにあると。ならば殺人術の使い手は弱者に過ぎない。 殺外者(キリングメイカー)であるならばそれはすべからく弱者だ。強者になろうとするならば殺括者(キリングホルダー)になるしかない……」 一息。 「おれは弱者でいい」 返って来たのは笑いだった。 侮蔑と失望の意を込めた音の響き。 嘲笑だ。 田中が哂う。 「――器が足りん」 蔵人は構わず距離を詰めた。 打撃の威力を上げるには、踏み込みを強くすればいい。 だが、強い踏み込みを入れた直線的な打撃は、曲線的な回避動作とは違う。威力はあるがカウンターに弱い。 ゆえにそのような打撃は、連打というコンビネーションの最後、クリティカルブロウとして使うのがセオリーだ。 ――蔵人・体術/脚術/腕術技能・重複発動・掌底打撃・成功! だからこそ蔵人は、強い踏み込みで左の打撃を入れた。 拳ではなく掌底による打撃だ。 田中は右腕で防御する。 筋肉の鎧を纏う、太い腕だ。速度と精密さ重視の左の打撃では、ろくにダメージを与えられない。 むしろダメージを受けているのはこちらだ。折れた肋骨に振動が入り、激痛を生んでいる。 しかも、体当たるような踏み込み動作で放った一撃は、相手のカウンターを招く。 それは承知のうえだ。 カウンターが来た。左の拳だ。 ――蔵人・腕術技能・対抗発動・掌底打撃・成功! 蔵人はそれに合わせて右足で踏み込み、右の掌底を打つ。 拳と掌底が激突し、打撃力をぶつけ合い、 ……く! ――蔵人・心理技能・自動発動・痛覚無視・成功! 掌から伝わってくる痛みを蔵人は無視。 痛みも大した痛みではない。近接距離まで踏み込んだがために、拳が最大威力を発揮する点より前で着弾したからだ。 両者共に両腕を使い、封じ合っているこの状況。 次の一瞬だけが必殺の機会だ。 ――蔵人・心理技能・発動・記憶再生(イメージリピート)・成功! 遺伝詞を外燃詞して思い出すのは先日の戦闘。 妖物の熊に放ったあの一撃だ。 「お――」 強く外燃詞(オープン)された記憶遺伝詞(イメージライブ)が、長野の都市理力によって反響(リフレクス)する。 動作再生(アクティブリピート)。 “思い出の一撃”だ。 ――蔵人・体術技能・発動・ひねり・超成功! 筋のひねりによって力を蓄え、 ――蔵人・腕術技能・発動・押し付け・成功。 密着させた掌にわずかに力を込めて押せば、田中は反射的に抗って前に出てくる。 そこが二打目を放つ瞬間だ。 「おあああああああああああっ!!」 ――蔵人・腕術/体術技能・対抗重複発動・カウンター・成功! ――蔵人・腕術/体術/脚術技能・重複発動・超密着打撃・成功! 密着状態からのカウンター。 回避は不可能。威力は絶大。 凶悪なまでの打撃力が田中に炸裂する。 はずだった。 ――田中・雪王/心理技能・自動重複発動・遺伝詞凍結・成功! 手ごたえが消えた。 否、動作が停まったのだ。 「――何!?」 身体を浅く包むのは、冬の気温とは違う凍て付く冷気。 雪王神器の生んだ凍結の遺伝詞だ。 「……記憶遺伝詞の反響を凍結させ、動作再生を停止させたのか!?」 「なかなか面白い都市だな、ここは。余興でしかないが」 田中は言い、こちらの喉を掴んだ。握力任せで絞められる。 「ぐぁっ……」 「だが、余興はもう要らん」 蔵人は抗えない。肋骨の折れた身で記憶遺伝詞の反響による強制動作再生を行ったために、もはや抗える余力が残っていないのだ。 ……駄目、か。 息が止められ、思考が鈍くなる。意識が閉じかけている。 思い出すのは彼女のことだ。 かつてもいまも共に居て、やがても共に居たであろう彼女。 弱者でしかない殺外者。守りの誓約も果たせない。そんな自分を、なお信じてくれる少女だ。 蔵人は思考の中で彼女に謝った。すまない、と。 ……おれはいつも、救ってもらってばかりだったな。 聞きなれた音が聞こえた。 幻聴か、耳鳴りか。 鳴弦の音だ。 そして、鳥の羽音だ。 「――!?」 閉じかけていた意識が覚醒し、前を見た。もはや首の戒めはなくなっており、 ……空が……。 空がそこにあった。白の鳥が無数にはばたく空だ。 飛んでいる。投げ飛ばされたのだろう。 よく見れば、鳥は風水で作られたものだ。 名を呼ぶ声が響いた。 「――蔵人!」 同時に、蔵人は鳥たちに受け止められた。 大気で作られた鳥は、柔らかくこちらを包み込む。 その感触に浸り、蔵人は一つの名を遺伝詞で呼んだ。 ……芙雪。 直後、今度こそ意識が閉じた。 NEXT
https://w.atwiki.jp/penspinorder/pages/517.html
infinity outlime pub. date music editor spinner
https://w.atwiki.jp/tobeach/pages/18.html
SaFiN プロフィール コールネーム スタイル 武器 コメント デバイス マウス マウスパッド ソール キーボード ヘッドセット
https://w.atwiki.jp/sitescript/pages/703.html
AllFineGirls.xxx AllFineGirls.xxx http //www.allfinegirls.xxx/ Here you will find the All Fine Girls videos in HD quality. Enjoy the finest selection of real AllFineGirls! http //www.younglegalporn.biz/ allfinegirs.xxxへリダイレクトされます。 Young Legal Porn http //www.younglegalporn.xxx/ WowPorn http //www.wowporn.xxx/ 動画のないページで、Craving Explorerのダウンロードボタン(紫色の下向き矢印アイコン)が有効になってしまうことがあるかもしれません。 スクリプトをインストールversion 0.1 2016.12.30 up 修正情報 version 0.1 2016.12.30 up 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/fineshot/
タッチビリヤードゲーム『FineShot!』攻略Wiki このサイトはFINEから配信されているWindowsMobileスマートフォンゲームアプリ 『FineShot!』の攻略Wikiです。 アプリ名 FineShot! 対応機種 TouchDiamond/TouchPro/S21HT,X05HT,X04HT,HT-02A,HT-01A,E30HT ジャンル スポーツ 発売元 FINE 発売日 好評発売中 価格 1,380円(税込) FineShot! タッチパネル操作で、誰でも簡単にビリヤードを楽しむ事ができるゲームです。 定番のナインボールとエイトボールの二つのルールが収録されており、 様々な強さのプレイヤー達と対戦し勝ち抜いて行きます。 きれいなグラフィックとリアルな物理演算による本格派志向のビリヤードです。 ★アプリの内容について知りたい方はこちら。 ■FineShot!公式サイト ★アプリのダウンロードはこちら。 ■ダウンロードサイト
https://w.atwiki.jp/ni-mh/pages/7.html
動画(youtube) @wikiのwikiモードでは #video(動画のURL) と入力することで、動画を貼り付けることが出来ます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_209_ja.html また動画のURLはYoutubeのURLをご利用ください。 =>http //www.youtube.com/ たとえば、#video(http //youtube.com/watch?v=kTV1CcS53JQ)と入力すると以下のように表示されます。
https://w.atwiki.jp/ni-mh/pages/6.html
アーカイブ @wikiのwikiモードでは #archive_log() と入力することで、特定のウェブページを保存しておくことができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/25_171_ja.html たとえば、#archive_log()と入力すると以下のように表示されます。 保存したいURLとサイト名を入力して"アーカイブログ"をクリックしてみよう サイト名 URL
https://w.atwiki.jp/ni-mh/pages/2.html
メニュー トップページ プラグイン紹介 メニュー メニュー2 リンク @wiki @wikiご利用ガイド 他のサービス 無料ホームページ作成 無料ブログ作成 2ch型掲示板レンタル 無料掲示板レンタル お絵かきレンタル 無料ソーシャルプロフ ここを編集